ファイトカード

高田総統劇場

「おい! お前も同じ目に遭わなきゃいいけどな!」
 威風堂々のテーマ曲が流れ、高田総統以下、旧モンスター軍の面々が今夜はいつものバルコニーではなくリングに登場! 高田総統、インリン様がリングインする前に、川田、天龍、島田、アン・ジョー、バボ、佐藤耕平らが旧ハッスル軍を蹴散らしてリングから追い出した。旧ハッスル軍は仕方なく西側の通路付近に非難だ。
 ひとしきり「そーとー、そーとー」のコールを聞いた高田総統は「もういいよ!」と一蹴し、昨年まではハッスル軍が使っていたマイクスタンドで語りだす。
「昨年末、あの後楽園ホールから2ヵ月半。ちっとも成長していない、ハッスルファンの諸君。ご機嫌いかがかな?」
 すかさず場内から「そんなことないよ〜!」と反論の声が挙がるが、「あ、そう」と聞き流す高田総統だった。
「さて、新しい自己紹介だ。我こそが、ハッスルの偉大なる支配者・高田だ!」
 再び爆発する「そーとー」コール。リング上をせわしなく動き回りながら観客を煽っていた総統だが、すぐに飽きて「もういいよ!」とやはり一蹴。「今夜は、サイコ〜〜〜っに気分がいい! だってそうだろ? このリングの全てが、私の思うがままだ。旧ハッスル軍の連中の苦痛に歪む、小汚いツラを存分に堪能することも出来たしな」
 高田総統の言い回しがあまりにもくどく、場内からは思わず笑い声が起こる。しかし、「笑うところじゃないよ! この野郎!」高田総統が一喝した。「よって、今日は非常に気持ちがいいイベントだった。ウワッハッハッハッハッハ!」
 後楽園ホールに高田総統の高笑いが木霊したが、それを打ち破るかのようにHGが「セイセイセイセイ!」とマイクを握る。
「高田総統! あなたのやりたかったことってこんなものだったんですか? 随分と、アナルが小さいじゃないですか!」と挑発するが、HGと絡むのが大好きな川田が割って入った。
「おい、おまえ最近、テレビで見ねぇな?」と痛いところを突く川田! HGも「深夜に出てますよ、深夜!」と悲しく反論するが、「下ネタも自粛してるらしいじゃないか? 最初の頃の勢いはどうしたんだ、お前! そろそろ、芸に迷いが出てきたんじゃないのか? いっそのこと、そのハードゲイとやらもどうせキャラなんだから、やめちゃった方がいいんじゃないか?」と川田に痛いところを突かれまくるHG!
 しかし、「セ〜イ! いいですか! 下ネタは自粛しているわけではありません。やってもカットされてるだけですよ! いいですか? 私はね、あの細木数子に“あなたは物凄いスピードで間違った方向に向っている”と言われた男ですよ! 私はこれからも腰振りと、深夜帯でバンバン行きますからね!」と開き直るHGだった。
 TAJIRIも「そうですよ。このハッスルのリングは、僕たちハッスル軍が命がけで育んできた大切な大切なリングなんだ! あなたみたいに、私物化することなんて断固として許せませんからね!」と高田総統に反旗を翻す。
「お前らの言ってることはつまらーん!」と、なぜか大滝秀治風に怒鳴る川田! 反応の良さにもう一度「つまらーん!」とやってしまう川田だった。
「お前らはな、負けたんだぞ! ハッスル軍はモンスター軍に負けたんだよ。お前らもそうしたかったからな、ちょっとは金貯めて買収したらどうだ?」と狡猾な笑みを浮かべて勝ち誇る川田! しかし、ここで意外なところから火の手があがった!
「おい!」高田総統だ。「それじゃあ、まるでお前が買収したような言い草だな。貴様は、ビタ一文支払ってないじゃない! それにだ! 人の話にわ・り・こ・む・なっていつも言ってるじゃないかよ! コンの野郎〜!」ダブルの怒りをぶつけた高田総統は、それだけで納まりきらず「おい、Kのマイクを奪い取れ!」と島田とアン・ジョーに命じて、オープニングから握りっぱなしのマイクを取り上げてしまった。
「おい! オーナーは私だ。全ての決定権は私にある」不満そうな顔の川田に吐き捨て、高田総統は続ける。「そこの下々の者よ、お前らの言ってることは実にくだらない! 自分で自分のことを、『私は、世の中の仕組みが理解できない大馬鹿者です』と宣言しているようなものじゃないかよ!」と旧ハッスル軍に現実を突きつけると、場内からはすかさず「それは一面正しい!」と賛同の声が。この声に鋭く反応した高田総統は「だろう? 嬉しいよ、おい!」とノリノリだ。
「おい! ハッスルのオーナーはこの私なんだ。これからは、そうやって無闇に反発するのはやめておくんだ。オーナーであるこの私に、少しでも気に入ってもらえるように賢く振舞うんだ。そして! 一刻も早く私に忠誠を誓うんだ。いいか! 忠誠を誓うということは、いかに大事なことか。今から教えてやろう。そう、この男のようにな! 紹介しよう、出てきたまえ!」
 高田総統が呼び込むと、聞き覚えのあるイントロが…。これはNWA世界ヘビー級チャンピオンのテーマ曲である。するとなんと! 純白のゴージャスなロングガウンに身を包んだ小川直也が登場! まさかの展開に騒然となる場内! ガウンの背中には“CELEB OGAWA”と刺繍がしてあり、あの旧ハッスル軍キャプテンの小川に間違いない! 驚きのどよめきはやがて裏切られたファンによってブーイングに変わった。さらに小川はリングインすると、なんと総統とガッチリ握手をかわす。
 TAJIRIが「ちょっ、ちょっと! 何、やってんですかキャプテン! どうしたんですか、その格好は?」と問いただすと、小川は涼しい顔をして話し始めるではないか。
「貧乏人の諸君、ハロー! これからは、アイアム・チキンじゃなく、アイム・セレブです。よろしく」と妙に丁寧な言葉で喋る小川! 場内は当然大ブーイングだ。
「正気ですか、キャプテン! やる気満々の格好じゃないですか! ノリノリじゃないですかぁ!?」(HG)「キャプテン、冗談きついよ! 例えキャプテンでもな、言っていいことと悪いことがあるだろう!」(大谷)と旧ハッスル軍は詰め寄るが、小川はやはり涼しい顔をして「冗談……って何かな? わりいけど、こっちに入ることにしたから」とあっさり言ってのける!
 これにはHGも怒り、「あっさりしすぎでしょう! どういうことか、きっちり説明してくださいよー!」と訴えかけた。
「説明してやろう」ここで口を開いたのは高田総統だった。「一言で言ってしまえば、コレだよ」総統の親指と人差し指は、見事にくっついて丸を描いた。つまり、金だ。これには場内は大ブーイング。「銭ゲバ!」と罵声が小川に浴びせられる。高田総統は続けた。
「私がこの買収話を進めている時、モンスター軍入りを条件に、破格のギャラを提示してやったんだ。ま、額については詳しくは教えられん。ただ、お前たちが聞いたら、ムッとするような高額だ。そしたらよ、案の定、この男は目の色を変えて食いつきよった! さすが、金の匂いには敏感な男だよ」
 銭ゲバとは言われていたが、ここまで守銭奴だったとは……呆れるばかりである。高田総統の買収に、まんまとのってしまったというわけだ。高田総統と旧ハッスル軍のやりとりを聞いていた小川は、あくまでも涼しい顔で上品に語り始めた。
「いつまでも青臭いことを言ってるあなたたちより、コレ!」
 小川が示したのは、親指と人差し指をくっつけて描いた見事すぎる丸だ! 「こっちのほう(金)が信用できるんだよね」またしてもあっさり言ってのける小川!
「この銭ゲバ野郎〜! 俺たちをだましやがったな、この野郎!」と怒りを爆発させる大谷。TAJIRIも怒りに震えながら続く。
「ちょっと、ちょっと待ってくださいよ。じゃあ、あなたは心までも金で買収されたってことなんですか? あなた言ってましたよね! 『人の心は金で買えない』って! あの言葉は嘘だったのかよ!」TAJIRIはもはや泣きそうな声だ。
「うるせぇんだよ、この野郎! さっきからゴチャゴチャ!」と本性をむき出しにした小川だったが、「あ、失礼。僕としたことが…(照)」とすぐにセレブモードに戻り、「さきほどから嘘だとか、だましたとか、おっしゃってますけど、次元の低い話なんだよね。僕は、またとないビジネスチャンスの話に乗っただけで。より金の儲かる方を選ぶのは、ビジネスとしては当然だろ?」といけしゃあしゃあと語る小川!
 しかし、続いて小川の口から飛び出した「そもそも、こんな事態になったのは……お前らがしょっぱいからだよ」との言葉には、場内割れんばかりの“えっえぇ〜!”という疑問の声とブーイングが大爆発! 大谷・HG・TAJIRIも口を揃えて「しょっぱいのはお前だろ!!」と反論、いや正論を言い返した。
 憤懣やるかたないHGは、「キャプテン、何ですかハッスル星に行くとかおかしなことを言って! ハッスルの休止はこういうことだったんですか! あなたね、収入はともかく人間としてはRG以下ですよ!」とこれ以上はないという侮辱的な言葉を小川に浴びせる。
 そして、怒りのTAJIRIが口を開く。「じゃあ、名古屋で組んだ僕とのシングルマッチも、最初からの計画的な犯行だったということかよ!」この叫びに対し、小川は全く悪びれず「今頃、気がついたんですか? 僕のこれからの仕事は、あなたたち旧ハッスル軍の残党狩りです!」と衝撃的な発言!
 これにはTAJIRIも呆れ果て、頭を抱え込んでため息混じりに吐き捨てる。「僕はもう、バカバカしくなってきたよ…。何のために今まで頑張ってきたんだよ…。小川! とうとう僕を本気で怒らせたな! 名古屋ではな、俺のプロレス人生の全てを賭けて、お前を地獄に叩き落してやるからな! 覚悟しておけよ!」と、ハッスル参戦以来初めてとも言える怒声を挙げた。元WWEのスーパースターが、本気で怒ったのだ! これは名古屋で小川もただでは済みそうもない。
 それでもTAJIRIは、やはりショックが大きかったのか、頭を抱えて「皆さん、すいません。今日は僕、帰ります」とそそくさと場内を後にしていった。
 リング上でただニヤつくだけの小川へ向かい、今度はHGが叫ぶ。「キャプテン…いや、もうキャプテンとは呼べないんですよね! 分かりました。こうなったら、私たちがハッスル軍を再建させていきますからね! 皆さん、応援して下さい」と絶縁状を叩きつけた。大谷も「言っとくけどな、俺たちはお前なんかいない方がスッキリするだろうよ。俺たちを裏切ったことを、絶対に許さないからな!」とやはり三行半を突きつける。そして、小川に軽蔑の眼差しを浴びせ、去っていった。
 高田総統が小川に「おい、ミスターセレブ! 気まずいか? まさか自分のとった行動を、今になって後悔してるんじゃないだろうな?」と問いかけると、小川は「いや、この程度の反発は想定内ですよ」と涼しい顔。「いいですか? 次の名古屋は、ここにいる諸君がビックリするような、キミたちの予想を上回る楽しい楽しい展開になるから、絶対に見逃さないで下さいね」と不気味な予告まで繰り出した!
「さすが! 裏切り者の中の裏切り者だよ!」そんな小川をどこかで聞いたような言葉で褒め称える高田総統。「おい、下々の諸君。不愉快か? だが、一つだけ言っておく。歴史というものは、常に勝者によって作られていくものなんだ」と勝ち誇った。
「では、最後は私がとっておきのやつで締めてやる」高田総統の宣言で、アン・ジョー司令長官が説明を始める。
「それでは、全員スタンドアップ、デース! いいデスカ? ハッスル! ハッスル!! の後にビターン! ビターン!! デース」と、ハッスル軍のためのハッスルポーズと、高田総統のビターンを融合させてしまったポーズを説明した。まさか、栄光のハッスルポーズまで高田総統に奪われるとは……。失意のファンの空気を読んだ高田総統は、「ちょっと乗り気じゃないようだな?」と言うが、「おい、それはないだろう?」となだめるのであった。
 そして、「これで、ハッスルはこの私が征服した!」と完全勝利宣言。諦めたファンも「そーとー、そーとー」のコールで新しいハッスルの支配者を祝福する。
「今夜は最高に気分がいい! いくぞーっ! スリーツーワン、ハッスル! ハッスル!! ビターン! ビターン!!」
 威風堂々のテーマ曲が再び鳴り響き、ご満悦でリングを後にする高田総統。まさかまさかのキャプテン離脱で、高田総統の完全支配が続く中、名古屋ではさらなる波乱が待ち受けているに違いない……!!

メインハッスル

4分50秒 コブラクロー

“インドの猛虎”タイガー・ジェット・シンとの大一番を控え、テレビで好評放送中の『拝啓、●上様』風に、闘う前の心境を手紙にしたRG。その内容は「きっとこの手紙を読んでいる頃、私は死んでいるでしょう」「これまでハッスルで何度も死線を彷徨ってきましたが、今回ばかりは本当に死ぬかもしれません」と、死を覚悟した悲壮なものだ。さらに街をフラフラと歩くRGは、知らず知らずのうちにシンがア●トニオ猪木を襲撃したという新宿伊勢丹…ではなく三越の前に。「ここがシンが●木さんを襲ったのか…」と、伊勢丹と三越を勘違いするという凡ミスを犯すのであった。
 三越の近くにあったライオンの像を見つけ、RGは虎に対してライオンで立ち向かうことを思いつく。しかしそれでも不安を拭い去ることはできず、「心配だな…」とつぶやくRG。するとどこからともなく、「♪心配ないさ〜!」との雄たけびが! 肩を落としたRGを励ましに来たのは、ミュージカル『ライオンキング』のモノマネで知られる吉本の若手芸人・大西ライオンだ! その美声で「♪心配ないさ〜!」を連呼する大西ライオン。それに励まされたRGは大西ライオンと共に、意気揚々とデパートを後にした。

閉じる そしてメインイベントのリングに現れたのは某老舗団体で活躍していたリングアナ、ケロちゃんこと田中秀和! サプライズゲストに大歓声が巻き起こる。そのケロちゃんに「当たって砕けろ」と紹介され、RGが花道に現れると、今までRGには冷たい対応を取っていたハッスルファンも、RGの入場曲に合わせて暖かい手拍子を送った。続いてシンの入場、シンの入場テーマが流れると、どこかほのぼのとしたムードが一変! 花道に現れたシンは、観客を巻き込んでの大暴れ! 後楽園ホールを恐怖の渦に巻き込むと、サーベルを咥えてのリングイン。ケロちゃんにも暴行を加える暴挙に出た。
 そんなやりたい放題のシンだったが肝心のRGの姿はリングにない。辺りを見渡すシン。するとその隙を突いて、シンの死角からRGがシンの背中に飛びついて、そのままチョークスリーパーだ! この奇襲攻撃にヒートアップする後楽園ホール。会場からは「落とせ!」コールも巻き起こる。しかしRGの奇襲もシンには通じない。RGを強引に振り落とすと、ここからシンの地獄の攻めが始まった。
 シンはマットでのた打ち回るRGに容赦なくストンピングし、RGを場外に蹴落とす。そして場外に落ちたRGをパイプイスで殴りつけ、そのままRGを客席まで連れ回し、パイプイスの中に投げ捨てる! フラフラのRGをサーベルやビール瓶で殴りつけるシン。この凶器攻撃でRGは額から大量に出血! RGの顔は鮮血で染まった。しかしそれでもシンは攻撃の手を休めることなく、RGの首にターバンを巻きつけ、サードロープから吊るし上げる。さらにシンはRGに容赦なくストンピングを落とすと、今度はRGの傷口に噛み付いた!
 再び巻き起こるRGコール。シンはコブラクローでRGからフォールを狙うのだが、ここはRGが必死に足を伸ばしてロープブレイク! 一気に沸き上がる後楽園ホール。しかしシンが二回目のコブラクローをRGに見舞うと、もはやRGにそれを返す力は残されておらず、RGは猛虎の前に散った。
 試合終了のゴングが鳴っても、シンはRGに対して暴行を止めない。するとここでハッスル軍の面々がRGを救出に入る! さらにその中にはHGの姿も! いつもは冷静なHGだが、周囲の静止を振り切ってシンに殴りかかろうとする。痛めつけられた相方を見て、HGの怒りに火がついたのだ。
 鼻息荒くマイクを握ったHGは「虎男さん! あんた芸人相手にやりすぎでしょう! あんたみたいに空気を読まない人間は、芸能界にいたらすぐに干されてしまいますよ! いくらRGとは言え相方をあそこまでされたら、私の股間のサーベルタイガーが黙っていませんよ!」と怒りを表現する。そして大健闘を見せたRGに対して「よくやった。もう一度、RGに盛大な拍手をお願いします」と労をねぎらった。
 しかしそれでもHGの怒りを収まらない。シンが去っていった方向を睨み付け「3日後の名古屋でシンをぶっ潰します! シンの睾丸を取り出して煎じて飲んで、FEDを治してやりますよ!」とHG。真剣白羽取りならぬ、サーベルアナル取りという荒技でシンに立ち向かうことを宣言した。


インリン様劇場

 ハッスルブレイク明け、場内が暗転する。ボレロが流れる中、島田二等兵がエスコートするかたちで花魁(おいらん)姿のインリン様が登場だ! そのセクシーな姿に超満員の観客はもうデレデレ。
「あいも変わらず、暇でモテナイ、ハッスルファンの諸君。お久しぶり。私は、愛と美と闘いの女神・インリン様よ!」
 インリン様の久々の後楽園降臨の瞬間に、観客は盛り上がりっ放しだ。
 横にいた島田二等兵は「おい! 今日はインリン様の復活祭だ! 歓びの気持ちを込めて、『インリン様』と叫べ! せーの…!」と客も煽ると、どうだ! すさまじいばかりのインリン様の名を叫ぶ声が会場に沸き起こった。
 高田総統がハッスルのリングを支配したと耳にしたインリン様は「ふさわしい相手がみつかれば、いつでもリングに上がってもよくってよ」と戦列復帰をほのめかす。
 慌てる島田二等兵は「それはいけません! インリン様は、あのニューリンが出てきた卵を産んで、全てのM字パワーを使い果たしてしまったんです。リングに上がるなんて、危険すぎます!」と説得にかかる。 しかし、島田二等兵のそんな心配は不要のようだ。ニューリン様を産んでから、こんこんと新しいM字パワーが湧き出してくることに気づいたインリン様は、以前のM字パワーよりも数倍威力のある新M字パワー、すなわち、マザーのMのパワーを得たようなのだ。「“母は強し”とは、よく言ったものね!」とインリン様はもうすでにやる気満々だ。
 衝撃的なことがインリン様の口から語られた。「ニューリンは、私が旅の途中に監禁したわ。あの娘は、少しお転婆が過ぎたから、これから私が洗脳し直すわ」
 驚きの反応を示す観客を尻目に島田二等兵は「ところでインリン様! 一つお聞きしたいのですが、今日は例のM字ビターンは、おやりになられるんですか…? 長らくご無沙汰していましたが…おい、お前らも見たいだろ!」と落ち着きのない様子。
 インリン様のM字開脚姿。見たくない人間がいたら教えて下さい。エロな人類皆兄弟。満場一致の観客は「見た〜い!」と叫びまくり。
 じらすかのようにインリン様は「そんなに洗脳されたいの?」とお色気たっぷりに問いかける。観客の反応を見たインリン様は「しょうがないわね…島田!」とさっそくM字台をスタンバイさせる。
「それじゃいくわよ! 3、2、1、マザー! モンスター!」M字台が一回転する中、インリン様は新M字開脚を披露し、会場にいた暇でモテないハッスルファンを洗脳したのだった。


セミハッスル(敗者島田二等兵の靴舐めマッチ)

7分24秒 ミサイルキック

 高田総統がハッスルを支配下に置いたことで、ハッスルは、高田モンスター軍の占領下に置かれた。新体制では、ハッスル軍、坂田軍団は有名無実の状態となってしまう。しかし、事がそんなスムーズに運ぶはずもなく、いち早く旧ハッスル軍は、総統体制を拒否する。中でも、この男の反発は凄まじかった。その男の名は旧ハッスル軍副キャプテン・大谷晋二郎である。
 一方、それとは逆に現実を受け入れたのが、かつてのハッスルGM、そして坂田軍団のボス・坂田亘だ。そんな2人に対し、高田総統は今宵、とんでもない嫌がらせを仕掛ける。それが「敗者島田二等兵の靴舐めマッチ」だ! 負けた方は、島田二等兵履き古しの靴を舐めるという屈辱極まりないルール。負けても地獄、勝っても地獄。行くも地獄、戻るも地獄。高田総統という強大な権力に真っ向勝負を挑む大谷。上がるリングがあってナンボと、現実に折り合いをつけ、這い上がろうとする坂田。あなたは、どちらの選択が正しいと思いますか?

閉じる 高田総統に忠誠を誓ったとはいえ、なぜかトイレが控え室という無様な姿の坂田に対し、崔は不満タラタラ。そんな崔に対し、坂田は「仕方ねぇだろ? オレは外様で新参者だ。今日大谷に勝てば、高田総統のオレに対する株は上がる」と何とも説得力のない言葉で納得させる。
 崔が坂田軍団の再結成を呼びかけたところ、それを一蹴するかのように大便を済ませ、すっきりした表情の島田二等兵が出てきた。そして崔を見つけるなり、TUTAYAで100円レンタルしたという小池●子のDVDを返却してくるように命令だ。
 納得のいかない崔を尻目に「結局、小池のDVDは見ないまま返すけど、これからはリデ・ディゾンの時代だ!」今人気絶頂で、歌手、モデル、レースクイーンと何でもこなせせる米国出身の女性の名前をあげる島田二等兵。
 ふと考えた崔も「これからはリア・ディゾンがくるかもしれないですね〜」と妙に納得する。小池を否定された坂田は崔に攻撃を加え、試合へと向かうのであった。最初に登場したのは大谷。いつもの赤いファーのロングコート姿でリングイン。続いて崔を従えた坂田が登場!

 ロックアップから試合はスタートする。お互いにロープ際まで押し合う攻防を見せ、力は五分五分といったところか。両者はチョップ合戦。そして流れるようにバックを取り合い、今巷で流行りのキャッチレスリングを展開する。
 さこから立ち上がると、ドロップキックの打ち合いへ。坂田は勝負を決めようとフォールへ。そうは問屋が卸さない。ここから大谷が反撃だ。坂田をコーナーに備え付けると、顔面ウォッシュへ。この大谷ワールドに観客は大盛り上がりで反応する。反撃の手を緩めない大谷がトドメをさそうとしたところ、リング下で控えていた島田二等兵が坂田の援護へ。羽交い絞めにされた大谷めがけて坂田が蹴りを放つも、これは島田二等兵に誤爆してしまう。ここから場外乱闘になり、大谷は坂田を鉄柱に叩きつけた。
 両者リングアウトとなれば、敗者は存在しない。そう考えた大谷は場外カウントが告げられる中、坂田を踏みつけたままリングインしようとせず。この姑息な手段に怒った島田二等兵はマイクを持ち、「お前ら! 両者リングは認めねぇぞ! このままだったらオレのケツを舐めてもらう!」
「そんなのは嫌だ〜!」叫ぶ大谷は倒す気が出たのか、エルボーを坂田に連打。負けじと坂田はバックドロップをお返し。大谷もすかさず同じ技でやり返す。ダウンした坂田に対し、「靴舐めたいのか?」と島田二等兵が問いかける。すると隙ありとばかりに大谷が坂田の後頭部にミサイルキックを放ち勝負あり。この瞬間、ルールにより坂田が島田二等兵の靴を舐めることが決定したのだった
 大谷が勝ったことで少し不満の島田二等兵だったが、「おい、坂田! さっそく、お前のお口でベロベロ舐めてくれ」と公衆便所も同然の靴を差し出す。
 その様子を見た大谷は慌ててマイクを取り「ちょっと待て! こんなルール、クソ食らえだ! 坂田、そんなことやるこたねえよ! こんなことまでして、お前が手に入れたいものってなんだ? それで、手に入れたとして、満足できんのか? いい加減、目覚ませ、バカ野郎!」と坂田を説得にかかる。
「お前は、勝ったんだからいいだろ。一緒に、楽しめ!  Let’s enjoy! 」と島田二等兵は、すでにやる気まんまん。坂田をひざまずかせると、自分の足をグリグリグリグリ。たちまち坂田の顔は靴墨で黒くなってしまった。
「ギャハハハハハ! なんだ、その顔! こそ泥みてえな顔になってるじゃねえか!」と罵倒する島田二等兵に対し、我慢の限界が来たのか坂田の目は尋常ではなくなっていた。ビビる島田は「なんだよ…。お前、俺を殴れんのか? 殴るのか? まあ、待て。落ち着け…な、これからはもっと仲良くしよう」そう言って握手も求めた。
 すると坂田の返答はこうだ。容赦ない力で島田二等兵と握手するではないか! 悶絶する島田二等兵は「この野郎…! 総統にいいつけてやるからな!」と小学生ばりの捨て台詞で逃げるように姿を消したのだった。
「こんなクソみてえな会社、こっちから辞めてやるよ!」吹っ切れた感のある坂田は吐き捨てるように退場する。高田総統政権下でやっていけない坂田はこのままハッスルを辞めてしまうのか!? これで坂田は見納め、となる可能性も出てきた。


サプライズハッスル

3分33秒 パワーボム

場内のスクリーンに再び高田総統の姿が映し出される。
「あっそう。くちばしの青いヒヨコ2匹が考えることは、せいぜいそんなもんだろうな。そんなにモンスター軍と闘いたいのなら、ヒヨコ2匹にオモチャを与えてやろう。ただしこのオモチャと遊ぶには命と引き換えにする覚悟が必要だがな…」と不敵な笑みを浮かべた高田総統。
 その言葉を受けてリングに現れたのは、何と“モンスター大将”天龍と“モンスターK”川田だ!

閉じる 竹刀を持ってリングに上がった天龍は、いきなり二人を滅多打ち! 竹刀が真っ二つに割れるほどの激しさだ。消火器を持って殴りかかろうとするチエだったが、天龍はそれさえも竹刀で殴りつける。天龍に代わってリングに入った川田も、容赦なく二人を痛めつける。チエを強烈な張り手で吹っ飛ばすと、KUSHIDAには逆水平から、えげつない角度でのハーフボストンクラブを決める。何とかロープまで逃げたKUSHIDAだが、もうすでに虫の息だ。そこに追い討ちをかけるように、天龍がエルボーを打ち込む。
 しかし渾身のタックルでKUSHIDAを救出しようとするチエ。この頑張りでダメージから回復したKUSHIDAがトップロープから天龍にジャンプキックを見舞う! さらにKUSHIDAとチエは二人係で天龍に張り手を打っていくのだが…天龍が強烈なダブルラリアット! この一発で二人はいとも簡単に吹っ飛ばされてしまう。するとここで天龍がチエを、川田がKUSHIDAを急角度のパワーボムでマットに叩きつける! リングにぐったりの二人を足で踏みつけ、天龍&川田が余裕しゃくしゃくの3カウントを奪った。
 試合後、なぜか場内には川田がオープニングで熱唱した『桜』が流れる。「勝手に俺のテーマ曲を変えるな!」と訴える川田。しかし川田の歌唱力を気に入った観客は「アンコール」と手拍子を続ける。それを聞いた天龍は「川田君、いい声してるじゃねえか」とニヤリ。川田は「大将、俺は次のオープニングは大将にお願いしたい」と、何と天龍に対して歌のオファーを出す。
 すると天龍は「♪俺はよ〜♪ 演歌じゃ負けないよ」とまんざらでもない様子。しかし「歌はプロレスと一緒で、そいつの人間模様が出るんだ。そういう意味では、さっきの歌は軽くてよかったな」と、川田の美声に釘を刺してリングを降りた。まるで苦虫を噛み潰したような表情の川田。やはりここでも天龍の方が一枚上手なのだった。


第2ハッスル

 高田モンスター軍アジト、島田二等兵は何やら携帯をいじりながらニヤニヤしている。するとそこに高田総統が登場。ハッスル新体制発足の記念日に、出会い系に精を出している島田二等兵を一喝する。すると「次の試合はハッスル軍の下っ端同士の試合だったんで…」と言い訳。それを聞いた高田総統は「何が下っ端同士の試合だ! このたわけが! あいつらはまだハッスル軍に入ったばかり、日本のプロレス界の悪しき伝統に染まりきってないのだ。鍛えようによっては、ハッスルの将来を担う存在だぞ!」と声を荒げる。高田総統にしては非常に慈悲深い言葉だったのだが…「私が恩をかけてやったにも関わらず、あの二人は私に立てついた。そういう恩知らずには潰しあえばいいんだよ」と、悪魔のような言葉を付け加えるのだった。
 ウルフルズの『バンザイ』に乗って入場のチエは四方に礼。KUSHIDAは静かにチエを睨み付ける。そして二人がリングに並ぶと、非情のゴングが鳴らされた。
 しかし試合が始まると、KUSHIDAがいきなりマイクを要求、そして高田総統に噛み付いた!
「高田! 仲間同士で潰し合いなんて出来るか! ハッスル軍の敵はモンスター軍一つだ! 本当はビビッてんじゃねえのか! 出て来い!」


第1ハッスル

8分12秒 横入り式エビ固め

「おふくろさんよ〜おふくろさん〜空を見上げりゃ〜空にある〜」
 川田の熱唱を受けて、あの森進●でさえ歌えなくなった「おふくろさん」を熱唱しながら登場したのは全知全能、ハッスルの全権を支配する高田総統だ。ハッスル新時代の幕開けとなる第1ハッスルは旧ハッスル軍残党狩りがテーマ。「この私がこのリングを支配しているという真実を存分に見せ付けてやる!」そう言い放つと、コブシをきかせたビターンを放つのであった。まず登場したのはTAJIRIだ。続いて、アン・ジョー司令長官が先導しながら佐藤、バボがゆっくりとリングイン。

閉じる「後の二人はウドの大木同然。狙うは司令塔一人」と戦前に戦略を語っていた通り、TAJIRIは勢いよくアン・ジョー司令長官にエルボーで突っかかった。しかし多勢に無勢だ。TAJIRIはあっという間にリンチ状態に追い込まれてしまう。入れ替わりのようにボディスラムで叩きつけられると、TAJIRIはうめき声をあげ今にも死にそう。
 コーナーに控えるアン・ジョー司令長官は何もせず、高みの見物といったところか。ツープラトンのショルダータックルを受けるTAJIRIをじっと見ていながら、思わず「あれはひどいですネ〜」と全く他人事。TAJIRIはもうすでにリング上で大の字の状態に。そんなTAJIRIを無理矢理バボが起こすと、滞空時間の長いブレーンバスターで叩きつける。
 するとここで場内から、「アン・ジョー司令長官働け!」の声が。しぶしぶ動き出したアン・ジョー司令長官だったが、TAJIRIからスモールパッケージを食らってしまう。慌てて返すアン・ジョー司令長官。この動きに場内ではTAJIRIコールが沸き起こるが、戦況は変わらない。ツープラトンの片エビ固めを食らって身動き出来ないTAJIRIは、アン・ジョー司令長官につばをかけて最後の悪あがき。これにキレたアン・ジョー司令長官はストンピング連打で畳みかける。これで完全にグロッキー状態となったTAJIRIにはダウンカウントが告げられた。
 カウントぎりぎりで立ち上がったTAJIRIは、死力を尽くして猛反撃に出る! ロープ際でアン・ジョー司令長官を捕らえると必殺のタランチュラへ。もしこれが1対1だったら勝負ありとなったが、相手は3人ということをお忘れなく。すぐにカットされてしまう。
 アン・ジョー司令長官は「よくもやってくれましたネ!」とトドメをさそうとしたところ、何と! 場内が暗転! 
 ターミネーターの曲が鳴り響く中、登場したのは鉄仮面を被った海川ひとみだ。エプロンに立ったグラビアアイドルにモンスター軍が睨みを利かせながら顔を近づけてくる。そのモンスター軍に無理矢理、鉄仮面を剥ぎ取られた海川だったが、手にしていたスプレーを撒き散らした! これでひるんだバボに対し、TAJIRIがすかさず丸め込んで3カウントを奪取! TAJIRIが見事に逆転勝利を果たしたのだった。
 まさかのフォール負けを喫してしまい茫然とするバボに向かい、マイクを握った海川は「バボさん! 私が鉄仮面を脱ぐ時は、あなたが地獄に落ちるときって言ったでしょ。やっぱり…あなたの背後には死神が見えます!!」と勝利宣言だ。怒り心頭のバボは「おいこら、ガキ! もうホンマにお遊びは終わりや! 18日の名古屋! お前の地元で、二度と……」
 よほどダメージがあったのか、咳こんでしまうバボ。気を取り直すと「人前に出れんように、顔の形をギタンギタンに変えたるわ! ハッスルだけじゃなく、それで芸能界も引退じゃ!」と吐き捨てて会場を後にした。ますます因縁が深まった海川とバボ。この二人の決着戦が行われる名古屋は一体どういう展開になるのか!?


オープニング劇場

 今年2月の高田総統によるハッスル買収劇により、新たに生まれ変わったハッスル。大会前に会場で放送されたVTRでは「ハッスルを支配下に収めた高田総統に対し、勇敢に立ち向かってゆくハッスラーたちの姿を描いた壮大なるファイティング・オペラ」と紹介され、VTRの最後には「Fighting Opera Episode U」の文字が現れた。
 その新生ハッスルのオープニングに現れたのは、タキシード姿の川田。大きな拍手で迎えられる川田の挨拶は「相変わらず暇でモテないプロレスファンの諸君、この2カ月間はハッスルがなくて、さぞかし暇をもてあましていたことだろう」と、高田総統顔負けの暴言から始まった。しかし「そういう私もYoutubeで若手芸人のギャグを見てしまったよ」と、無駄なカミングアウトをする川田。
 そして本日の対戦カード発表が終えると「ところでだ。このハッスルの謳い文句と言えば何だ? そうファイティングオペラだ。ではこのファイティングオペラに足りないものは何か?」と、川田は観客に何かを問い詰める。思わずキョトンとする客席。川田はリング上から名指しで客に質問するものの、答えは返ってこない。それどころか「何かが欠けけ○※▼?×………噛んでしまったじゃないか。こんな格好したことないから、緊張しているんだよ!」と慣れないタキシード&オープニングにテンパッているようだ。しかし気を取り直した川田は「オペラと言っておきながら、歌がないんだよ」と力説。そして「それでだ! 私が歌を披露しよう!」と、マイクを握り締めた。
 暗転する場内、そこに流れ始めたのはコブクロの大ヒットバラード『桜』だ。歌い出しから熱唱する川田。すると川田は意外な歌唱力を発揮! いかつい風貌からは想像もつかない美声を轟かせる。すると自然と客席からは手拍子が起こる。『桜』の心地よいメロディーと手拍子、そして川田の美声に後楽園ホールは揺れた!
『桜』を熱く歌い終えた川田は「これからのハッスルは歌で勝負だ。そういうことだよ! バッドラックだ!」と言い残すと、満足気な表情を浮かべたままリングを降りるのだった。


オープニングムービー